[立ち読みする]
◆ 著者第五詩集
二十年勤めた病院を辞めました
真冬の深夜に点滅する
信号機も
夜明けの配膳室にうずくまる
早番の猫も
夕暮れの待合室で待つ
病人よりももっとやつれた家族も
みんな
さよなら
僕は出ていくよ
──病院を止めて何をしてるんだ
──もっと世間の役に立つ事をしろ
本を読んでいる背中に
こんな言葉が突き刺さって
ステゴザウルスみたいに
なった僕は
のっそりと
伝説の医神が生きていた
霧深い古代の道を辿り
そそり立つ現代の病院の芝生の上に
今
おずおずと
一歩を踏み出すところです
著者(ステゴザウルス(あとがきにかえて))より
<目次>
進歩/ヒポクラテスの髭を剃る/飼う/空欄を埋めよ/炉端の鬼手仏心/青いブランコ/病棟を遠く離れて/緋文字/浸す/影踏み/数字/雨が降ると/花言葉/初雪/漂流/脱け殻/窺う/俗医者/病棟のクリスマスキャロル/夜のランナー/手術待合室/ステゴザウルス(あとがきにかえて)
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雨が降ると
雨の日には
外来の患者さんが少ない
ことがある…
まるで
今日一日だけは世の中から
病気の人が少なくなったような
そんな気がするから…
雨が降ると
だから
その日一日だけ
僕は
少し嬉しくなる
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進 歩
医学は
と言うか
科学は
すごい速さで進んで
僕等は
ますます貧乏になる
あれもまだだ
これも足りない
と
進歩すると言うことは
そういう事だ
僕等の後ろから
追いかけて来る足音が
ますます
明瞭に聞こえてくると言うことだ
急いで生と死を定義しないと
その境界が薄れてしまうと
誰かが
僕等を追い立てているが
振り向いても
そこにあるのは
自分の
影ばかり
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●著者略歴
1942年佐賀県唐津市生まれ。1967年九州大学医学部卒業