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◆第36回 福岡市文学賞受賞
世界が物で出来ているとしても 物は言葉で刻まれて初めて形になるのかもしれない 一本の丸太が美しい仏の姿に彫られていくように 日常の情景を静かに切りとった詩集。
◆収録作品より
イルンパイプ
仕事にかまけて
しばらく
詩のことを忘れていたら
詩のほうから
僕に会いに来て
イルンパイプの
ふいごの
音色で
ささやいた
アイルランドの
話ではなくて
信州は松本駅前の
ホテルのロビーで
ヒヤシンスが
今朝も
咲いていると
歌ったのだ
今日は詩のことを
考えるのはやめよう
詩を
作るのもよそう
ただ
皮のふいごから
ひゅうひゅうと吹いてくる
風の音に
耳を澄ませ
詩の歌う
古い物語を
楽しむことにしよう
*
[かたぎりひでひこ(1942〜)]
装丁:君嶋真理子
A5判変型上製カバー装
86頁
2004.12.24刊行