◆豊かなるもの
空へゆく階段のなし稲の花
第五句集
多彩にしてのびやかな世界。存在の痛みは韻律に孤心の色を添えながらも、詩人の魂はあくまで冴え冴えと清朗である。
◆自選十五句より
木枯やいつも前かがみのサルトル
湖國とや墓を洗ふに水鳴らし
まひるまをとろりと眠る紅葉かな
一身に心がひとつ烏瓜
天上の人を語らん昼の露
さえかへる机の上の仕事かな
海亀の涙もろきは我かと思ふ
浮寝鳥会社の車かへしけり
古きよき俳句を読めり寝正月
もの焚けば人の寄りくる氷かな
みづうみのみなとのなつのみじかけれ
詩の神のやはらかな指秋の水
寒林の真中ふたたび歩きだす
あそびをり人類以後も鳴く亀と
おほぜいできてしづかなり土用波
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[たなかひろあき(1959〜)「ゆう」創刊・主宰 「晨」同人]
装丁:君嶋真理子
四六判上製
216頁
2005.01.10刊行