◆ 『鏡の奥』に次ぐ待望の第三句集
<冷房のホテルの茶房仮面ばかり><言ひ出せず凍雪割つて鬱晴らす> 日常の生活において、人間、深刻になればなるほど滑稽を感じさせることがしばしばあるが、これらはそれに類したユーモアを確かににじませている。そしてそれこそが、大塚邑紅さんの俳句を深くもし、広がりをももたせているのにちがいない。
(略)日常の生活の中にひそむ不安、怖れ、かなしみ、怒り、そして寂寥といった内面の光景を凝らせた俳句によって構成された、大塚邑紅第三句集『空』は、久しぶりに得た、読み応え十分の句集である。俳句にも、俳壇にも、そして自らにも媚びることなく詠われた全三二七句は、心して読まれ、正しく評価されねばならぬ。遠藤若狭男(跋文より)
咲き重りせし紫陽花に何の罪
自負強くさゆれも見せぬ曼珠沙華
くれなゐを怺へて雪の中の薔薇
親不知しぐれて海かはた空か
明月と思ひながらも寝てしまふ
地虫出づ白髪一本二三本
雪積めり生まれて生きて老いし家
跋文・遠藤若狭男 装丁・君嶋真理子
四六判並製小口折 202頁