『水の宅急便』を読み進むうちに、夜の祈りにも似た静謐な世界が浮かび上がってくる。その世界から滲み出てくるのは、優れた俳句の持つ、薄紙に包まれたようなそこはかとない寂しさだ。
<シースルー・エレベーターへ大花火>
視覚的に華やかであればあるほど、エレベーターのガラスで遮られる無音の花火は、孤独感を増す。孤独とは、詩人である聡子さんが言葉を紡ぐために必要な時間のことだ。そもそも、寂しささえ知らない者がどうして詩人になれるだろうか。
仙田洋子(栞より)
かつて北欧のある詩人は「ひとがその実存の孤独な真相に徹すれば空気も芽を吹く」と言った。この句集の一句一句は、そうして芽を吹いた命の清冽な滴りとして、きらめく雫の結晶として、皆さんのもとに届けられる。
眞鍋呉夫(帯文より)
トランペットの一音#(シャープ)して芽吹く
菜の花の黄の極まりて人愛す
夜の畳祭かんざし影持てり
引力の届いてゐたり夏の月
ひとの名を呼びたくなりぬ雪の果
銀河濃し水の宅急便届く
まん中のくぼみしバター秋澄めり
帯文・眞鍋呉夫 栞・仙田洋子
装丁・君島真理子 四六判上製カバー装 150頁
○著者略歴
1958年12月12日生まれ。千葉大学教育学部卒業。1986年より石寒太主宰の「炎環」に在籍。’94年同人となる。1990年および1992年、現代俳句協会新人賞佳作入選。1993年、現代俳句協会新人賞受賞。1995年、第1句集『クロイツェル・ソナタ』刊行。現代俳句協会、日本文芸家協会、国際俳句交流協会会員