第16回俳人協会賞新人賞受賞!
◆常識を破り、予定観念をくつがえして、現実の中に超現実を見る。これが「詩」というものである。
いのえかつこさんの俳句が、その最初期から「詩」を獲得して、私を驚かせたのも、何かこの人の性情資質の中に、いわば無邪気さに自分をたやすく還元できる、そんな能力がひそんでいたのではないか、と思わせる節がある。
(序より:上田五千石)
◆本書より
等分のキャベツに今日と明日が出来
あまりにも澄みゐて水のなき如し
雲中を振りゆく如し花の坂
たのめなきこと狐火を見るごとし
恋の字の心のやうに火を埋む
万里より使者来るごとく初日待つ
早梅を片言咲きと言ひとむる
春寒や貝のはなさぬ海の砂
山中に煮貝を噛みてさくら冷
月あらぬばかりに朧深むなり
*
[いのうえかつこ(1943〜)「畦」同人]
序:上田五千石
跋:山川安人
装丁:伊藤鑛治
四六判フランス装
160頁
1992.09.15刊行