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夏霧や人に生まるる列にゐて
この作者、前世も人間だったかどうかは知らぬが、今度こそは、と人に生れる列の方に並んだのだ。生命誕生の神秘を易々と超えて、巧みに戯画化して見せる。全く虚の世界を、想念を駆使して書いているにもかかわらず、何処か夢の中で見た世界、既視感(デジャ・ビュ)もあることに驚かされた句であった。<序文より>中原道夫(帯より)
●自選十句
囀りの今際の耳を満たしたる
長長と蛇は己にこもりゐる
夏霧や人に生るる列にゐて
川音に葭簀たて掛け商へり
紫陽花のかむさるほどの墓がよし
舟虫のぞろりと雨の上がりたる
いつの日も見送る側に立つカンナ
松伐りて考の冬空失ひぬ
山畑や仏のための花も枯れ
敷松葉しづかな雨となりにけり
序・中原道夫
装丁・中原道夫
四六判上製カバー装
202頁