◆収録作品より
河べりの欅。おまえはひとつの哀しみの表情である。それは、高く屹立していること。大空へ向かって腕を開き、風の使者につつましくざわめいていること。決して受け容れられることのない許しをなおも提示しているのである。うすく瞼を閉じたその姿勢の背後から不断に剥落してゆくものを、おまえは察知している。おまえはラヴェンナの王妃。明るく澄みわたった空と塔の高みにおいて対峙せんとするひとつの無償の行為。ひとつの意志の形態。
(「マドリガル」より)
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[えざとあきひこ(1950〜)「光芒」「日曜日」同人]
装丁:伊藤鑛治
菊判上製函入り
82頁
1988.03.20刊行