◆収録作品より
火は森を狂わせるのか 近すぎる夜には丹念な劇をつづけ
きみは夜々の村々をとおくいつのまにか帰ってきた ぼくの旅だ それで
ぼくはきみとぼくの劇のために人形でない鶏を絞め殺す でも
こぼれる剃刀のようにぞくぞくする夜に
とおくで歌うしずかな愛の低吟はやめてくれ
女のようななめらかな水仙の花はとおざけてくれ
やめてくれ ぼくは戦いでぬるぬるになったきみと語りあかしたいのだから
できるならおねがいだ きみはガラスの稜線を殺してしまえ
眸のそとばかりに殺されるよろこびを夜にかえしてしまえばいいのだ
どこにいったのか ねえきみ きみのなかに落ちてくる夜の寝床には
誰もいない 誰もいないやさしさは もうぼくも知らないきみのなか
(きみの眸は危ないほど澄んでいるのに
なぜきみは帰ってしまっているの?)
(「火は森を狂わせるのか…」より一部)
*
[ほしのまもる(1954〜)]
装丁:君嶋真理子
A5判ペーパーバック
256頁
1998.11.20刊行