◆揺るぎない心
目をこらすまでもなくなり螢沢
闇が濃くなり目も馴れてきて、幻想的な螢の乱舞に息をのむ場面。
記憶まで覆ひつくされ草茂る
思い出の場所を訪れて懐かしむと同時に、その変りようを嘆き悲しむ心。
田辺ふゆさんの作品には、心のあやを、さりげない表現で揺るぎないものにし、万人をうなずかせるものがある。
(帯より)
◆帯選出十句より
身を飾るものうとましき花疲れ
大揺れの水のこぼれず金魚売
汲みあげし若水にはや星映り
脱ぎすてて重なりしまま花衣
門を出てもう駈け出して捕虫網
煮こごりのひとゆらぎして皿の上
枝々のゆらぐばかりに囀れり
その音の一つにあらず草清水
何せしといふこともなく二月尽
煤逃げの早きに過ぎし帰宅かな
*
[たなべふゆ(1925〜)「狩」同人 俳人協会会員]
帯・序句・鑑賞三句:鷹羽狩行
跋:片山由美子
装画:著者
装丁:君嶋真理子
四六判上製
196頁
2004.12.07刊行