◆現代俳句女流シリーズ燦
虫の夜やすこやかな地の息づかひ
時間の歩みに「すこやかな息づかひ」を感じとった感性の細やかさに感動し、この句にどことなく宗教的な清潔感を覚えた。私が小野瑞枝さんを注目し出した一句である。
姑君から受けた信仰心、心の原風景となっている異郷大連での生活、そして俳句によって知った写生の道、これら三つの要素が小野瑞枝という俳人の簡素にして清潔な詩精神をかたちづくっていると思われる。
(帯より)
ただ、ひたすらに写生を心がけてきただけですが、それだけに一句一句にその時の情景が鮮やかに思い浮び、生きて来た証を確かめられたことを幸せに思っております。
(あとがきより)
◆収録作品より
亡き姑の手擦れの聖書初日影
のぼりくる港の音や冬の丘
鉄扉の音寒夜に響く吾子ならむ
風邪癒えてまづ花種を蒔ける夫
囀の高まれば雨霽れてをり
塀越しに打水しぶき浴びにけり
白き鷺杜をよぎりし薪能
墓参りして近道の花野かな
木のうろに積もる朽葉や訃の知らせ
薄氷に菜屑まじれる外流し
*
[おのみずえ(1928〜)俳人協会会員]
栞:西村和子
帯・序:岡本眸
装丁:スタジオ・ギブ 川島進
A5判上製カバー装
112頁
1997.11.10刊行