◆ 第一句集
平成十三年十月、夫信晴が亡くなりまして五年が過ぎました。この度、故人の俳句を句集『土の香』に纏めました。故人が俳句を作る様になりましたのは、長女が誕生したころだったと思います。師と云う人は居りませんでしたが、身近に俳句を作る人が多く、自然に俳句に親しんだ様です。古稀をむかえて今迄の作品の整理をと思い立ち、作品を選んだり、推敲を重ねたり、日々精を出して居りました。そうしますうちに、にわかに病を得て中断せざるを得ませんでした。病は急速に進み早々に逝ってしまいました。その後を引き継ぎ出版する事に致しました。もう少し推敲をと故人が云って居りましたので、不本意かとも思いますが、できるだけ意志に沿ったつもりです。家族の協力を得て此の様に形にすることができましたこと、故人も喜んでいると存じます。
(中込怡衣子・あとがきより)
土に香といふもののあり木の芽時
薔薇挿して石仏坐はす石の室
飛び来たるものの蛾となる木下道
そよぐ髭伸べてちちろは昼憩ふ
補陀落の寺冬濤に門を開け
空に塵なき日続きて松過ぎぬ
沙羅散つてしばし花芯の灯を消さず
武蔵野に落葉湿りの径いまも
某妓の訃を聞きて
卵酒上手に作る妓なりしが
放哉に咳の句のあり十二月
装丁・君嶋真理子
四六判上製函入リ総クロス装