◆第一句集
笹百合や落人を祖と唄ひつぎ
恭子さんの遠つ祖は、源平の戦に破れ飛驒の山中に生き延びた人達である。人間との殺戮の後に待っていたのは、厳しい自然との闘いであった。
此に恭子さんの曾祖父のエピソードを一つ揚げよう。彼は熊撃ちの名人であった。生涯に九十九頭の熊を撃ち、遂に百頭目で熊に遣られこの世を去った。
――――この雄勁
一方、笹百合は幾星霜に亘り地下で命を繋ぎ、あの清らかな花を咲かせる。
――――この嫋々
この二つの性状を合わせ持って恭子さんの作品は生まれる。
識っているだろうか。真に美しい花には毒があると言う事を。美しく育てられ美しい恭子さんにそれを求めるのは単に無いものねだりだろうか。
とまれ、恭子さんの春秋は明るい。
(帯・渡辺純枝)
◆自選十句
啓蟄や小窓隔てて買ふ切符
フェルトに沈む文鎮花の冷
素粒子をとらへよ飛騨の秋澄めり
病む人に小雪の日のやはらかし
笹百合や落人を祖と唄ひつぎ
嘴から突つ込んでゆく茂りかな
猪垣や人寄せつけぬ昼の闇
襞といふ濃く深きもの春思にも
梅花藻の花なきところ水を汲む
選ばれて牛は荷台へしづり雪
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ご本の紹介→ (ふらんす堂「編集日記」)
[せきやきょうこ(1963〜)「濃美」同人]
帯:渡辺純枝
序:加藤かな文
装丁:君嶋真理子
四六判上製カバー装
204頁
2024/02/28刊行