◆第三詩集
棒は原初的な道具である
恐らくは、われわれの祖先が
敵や獲物を打ち据えるために
木の枝か何かを手にしたことが
棒という道具の始まりだろう
棒はその単純さゆえに多用され
打ったり叩いたりする以外にも
手の届かない場所を探ったり
傾く何かの支えとして
絶えず暮らしの場に置かれてきた
しかし棒は突然、見るも無残なさまで
バギリと折れてしまうことがある
この世界はある瞬間
非常にバランスを欠くことがあって
一時的に膨大な負荷が
一本の棒にかかってしまうのだ
また、見た目には堅固であっても
棒にはその実、愚直で脆い側面がある
ここにある一本の棒
それは私たちの祖先が手にしたままの姿で
確かに今も存在している
しかし、棒はもはや
日々組み替えられていく世界の中で
その居場所を失いかけている
棒に触れると
遠い岸辺にある小石のように
冷たい
(――「棒」より)
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[はしもとかずひこ(1964〜)]
装丁:君嶋真理子
A5判ペーパーバックスタイル
142頁
2023/09/30刊行