◆第一句集
ざんと水突く寒暁の刀鍛冶
灼熱した刀を水に浸ける焼入れの瞬間だ。「ざんと」の擬音語は単純だが揺るぎない。寒暁の設定もよく、忽ち濛々と水が沸き立つ中に、爛々と目を輝かせた刀鍛治が現れる。何より惹かれるのはこの句の厳しい声調だ。内容にふさわしいその韻律が、俳句を読む喜びを満喫させてくれる。
序より・小川軽舟
◆自選十五句
二二六の翌年春に生まれけり
少年に迦陵頻伽や水眼鏡
行く春のソファーの座り窪みかな
アウンサンスーチー女史の蚊を打つや
あたたかや先に逝くのを譲り合ひ
サイレンの音は変はらず広島忌
蟻地獄大いなる眼に覗かるる
二階から外を見てゐる秋の暮
邯鄲の夢いま醒めしごとく止む
煮凝や叶はぬことを夢となむ
公園の飛べぬ白鳥憂国忌
ざんと水突く寒暁の刀鍛冶
風花や淡く執念き旅心
老醜の心な見せそ冬の菊
初鴉羽織ごろつきしてをりぬ
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[かしわぎひろし(1937〜)「鷹」会員]
序:小川軽舟
装丁:和兔
四六判上製カバー装
212頁
2022/08/26刊行