◆揺るがぬ自我
信子は大正三年生れ、本名・丹羽信子、生誕地は大阪市東区八軒家(現在の京橋三丁目)である。三年後に東区船越町に転居する。ここでの幼児体験や、成年に至るまでの暮しが信子の人格や、作品世界を形成する礎となったのは言うまでもない。なかでも四歳の時に当時流行していたスペイン風邪にかかり、以後虚弱体質で病気がちに過ごしたこと、また家族の中心である父親から受けた教育が、信子の精神育成に大きく影響したようだ。病弱のせいで小学校も休むことが多かったらしく必然的に読書が習慣になった。一歳年上の兄の本箱の本を片っ端から読むなど少女時代の読書量が文学的素養を培ったと思われる。家族の暮しは家産で成り立っていたようで、職業を持たず常に家に居た父親は信子を子供扱いせずに接した。書画骨董の講釈をしたり、囲碁の相手をさせたり、美術館や菊花展にも連れて行ったと言う。小学生の娘に新聞の小説を読んで聞かせるなどしたそうだから、成育期の早くから成熟した精神を備えていたと推測する。
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[よしだしげこ(1936〜)「草樹」編集長]
装丁:和兔
四六判変形並製カバー装
222頁
2022/05/26刊行