◆第四句集
句集名「花の雲」は集中の「来し方の見ゆるや花の雲の中」に拠った。「花の比奈夫」と言われるほど「花」の句の多い先生。その先生に供えるには花のつく句集名は最良だと考えた。また、この名によって私の八十八年のすべてが花の雲の中にあったように、仕合わせだったことがわかる。両親から始まって出会った全ての人の愛の中に生きて来た私であることを思い、またすべての方々への御礼の籠もった句集名であるとも思い、嬉しかった。
(あとがき)
◆自選十五句
海よりの秋声海に消えにけり
蛍火の草より草に零れけり
来し方の見ゆるや花の雲の中
麹町三番町の燕の巣
そんなとき笑つてみよと山笑ふ
鬼やらひだけは大きな声出して
捜すこと勿れ涼しきところに居
秋桜むかし絵踏の庭とあり
文字消えしことの露けき父祖の墓
セーターの赤に包まれ百二歳
栗ひとつ剥くためにあるよき時間
飛花と行く風と落花と遊ぶ風
沙羅の花子は吾が老に触れざりし
虫聞いてをり鍵穴を捜しつつ
薄氷に水のさびしさ見えにけり
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[かねだしずえ(1933〜)「諷詠」同人・顧問・東京支部長]
序句・和田華凛
装丁・君嶋真理子
四六判上製カバー装
202頁
2021/08/25刊行