◆おもて
強い風が終日やむことなく吹きまくり、濃い霧がおびただしくあたり一面を流れていって、女はじっと立ちつくしていた崖の上から霧の下に見え隠れするうねり渦巻く暗い海面にぼんやりと眼を注いでいた。激しく吹き募る風に髪を嬲られて眼を細め、数本の赤い花を両手でつつみこむようにして持ったまま最前からそこに立っていたその女は、それまでそんな遙か下の方、荒々しく波立つ海などには眼もくれなかったのに、たった今はじめて視線を霧の底でうねる海へと落したのだった。手にしていた花束を一層力強く胸に抱きかかえるようにして。
(「花束」より)
◆目次
作品集------
花束
窓
旗
視
(天の透きとおった高みから)
(二人は海岸に降りて)
不可知
(影が存在してはじめて)
それから
(映画とは)
異言=音楽=言語
離私的体験死譚
ある壁画
公園
眠りの街
句歌集------
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[もりゆうじ(1963〜1995)」
装丁:君嶋真理子
四六判ペーパーバックスタイル
158頁
2020/11/22刊行