◆第一句集
万物に1/fゆらぎ秋
「秋のいろぬかみそつぼもなかりけり」という句が芭蕉にある。元禄四年晩年の作とされる句である。糠味噌壺もない晩年の暮らしに配された「秋のいろ」。「物事の表面に現れて人に何かを感じさせるもの」という意味として、けはい・兆しの意味としてよいだろう。この秋のけはいを現代物理学を学んだ國清辰也は周波数の揺らぎとしてと表現した、果敢な試みと言って良いい。
(跋より・矢島渚男)
◆自選十句
ゆるぎなく宇宙膨らむ初明り
白鳥に帰心促す白鳥来
鶯や空気ますます新しく
深爪へ血潮ののぼる花の冷え
ゴム手袋棒に挿しあり春の暮
耳たぶの和毛剃られる雲の峰
すんなりと話の進む涼しさよ
行く秋や涙は生血より分かれ
寒雀啄ばみしもの奪ひ合ひ
骨折の馬へ銃声冬の草
*
[くにきよたつや(1964〜)「梟」同人]
跋:矢島渚男
装丁:君嶋真理子
四六判ハードカバー装
162頁
2020/8/13刊行