◆詩論集
深遠へと傾斜していく世界、戦争への危機意識の下
「一匹の毒虫」となることを決意した
詩人・河津聖恵の渾身の評論集。
どこかに光り出す詩という希望をこれからも見出していきたい。「人間」が続く限りやがて見えてくる星座を、それらは準備するだろう。(著者)
◆本文より
「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。」
この秋、カフカの小説『変身』(原田義人訳)のこの有名な冒頭部分の意味が、初めて読み解けたと痛感した朝があった。変身したのはザムザではない。じつはザムザを取り巻く世界のほうだったのだ─。深夜、安保法案(安全保障関連法案)が可決し、殆ど眠れないまま迎えた朝である。(略)
詩は「毒虫」の声の側にある。正確には「毒虫」の中の人間の声、つまり毒虫化した世界によって、人間のものだからこそ通じないもの、「毒虫」のものとされてしまう声の側にある。そもそも現代詩とはそのようなものだった。うたいたくてもうたえない、だから結局は「ひっかくように書く」(カフカ)しかないものだった。そのような現代詩の「毒虫性」こそが今、私の脳裏で夜光虫の美しさと深海魚の神聖さを帯び始める。
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(ふらんす堂「編集日記」)
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[かわづきよえ(1961〜)]
装画:田中千智「Dream」
装丁:毛利一枝
四六判クータ・バインディング装
178頁
2020/07/10刊行