書籍詳細

♥♤♦♧詩集『空の間』(そらのあわい) [9784781411644]

販売価格: 3,000円(税別)

(税込: 3,300円)

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◆作品紹介
午睡がおわった。
浜へ出る。
日の傾きはおそい。
虹をとかした白線がうちおろす。
白砂が靴底へからみ、こぼれる。
かまってほしい子どもらを蹴飛ばしてゆくように、
無下にあしらう残酷さのきざしに、
淡い快をも感じたりしつつ。

海鳴りは飽きた。
ときおりここへくる人は、みんなこの青い水たまりに感嘆する。
辺境の故郷への幽閉はひどくおそれるくせに、
ときおりなぜか幸福げにおとずれはしゃぐ帰郷者たちのように。
なつかしいのだろう。
時々ということ。つかの間のアバンチュールのごとき余裕が、
そうした酔いと感傷じみた想いにさそうのだろう。

風がうっとうしく、肉や血や記憶の匂いをはこび、
望みもしないこちらの顔にたたきつけてゆく。
焼けた砂をときおりなだめにくる汀では、
小麦色のサルたちが奇声をあげ、宙にビーチボールをうつ。
帝国末期の銀貨幣の髪色した女は、せわしなく水着のずれをなおす。
裸と大差ないんだから、どうせなら脱ぎ捨てればいいのに。
おサルさんみたいで、おサルさんにもなりきれない……
それが悩ましいトコロ。
顔がかくれるほどにガムふくらませ通りすぎた。
しぼむ途中はじけ、鼻のあたまにネーブルの香りはりつき、ちぎれる。
明日は雨がくるだろうか。
ひけらかす陽をあおぐ顔をつまさきへ。
文明の轍のように、くつは砂を蹴散らしてゆく。



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ご本の紹介
(ふらんす堂「編集日記」)



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[♥♤♦♧(Heart spade dia club)]
装丁:和兎
菊判ソフトカバー装
208頁
2019/6/6刊行
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