◆珠玉のエッセイ集
幼少期を戦時下で過ごした俳人・福井隆子の珠玉のエッセイ集。
戦争、父母のこと、祖母、兄弟、家族のことを情愛を籠めた丹念な筆致で綴る。
そこには、昭和という時代への懐かしさとその痕跡が確かにある。
後半に収録された評論も力強い。
◆収録作品より
狂女は人形を抱いていた。黒い髪のふさふさとした人形のその白い固い頬に乳房をすり寄せていた。ふいに狂女は振り向いた。微笑んでいるように見えた。その目は緑色だった。そしてきらきらと揺れていた。私は弟の手を取ると一目散に駆けだした。駆けながら涙が溢れ、何時か泣きじゃくっていた。弟はその小さな手を私の背中に回して黙って歩いた。
「ある狂女の話」
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[ふくいたかこ(1940〜)「対岸」同人]
装丁:君嶋真理子
四六判ソフトカバー装
250頁
2017/9/10刊行