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◆第十二句集
血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は
日頃から日常から非常への切り替へである「旅」をこよなく愛して来たが、今回の「旅」は、非常の中へ、更に経験したことのない〝テロ〟といふ非日常が加はり、凡そ現実味のない絵空事、仕組まれた〝劇中劇〟の中にゐるやうな興奮を味はつた。主謀者の潜んでゐた〝隠れ家〟から然程離れてゐない所に私の宿はあり、その距離から当然緊張は強ひられた。しかし同時に妙に弛緩した〝空気〟が漂つてゐたのは慥か。そんな事態の中でも界隈のり場ではイスラム系の犯人と同じ人種の人達が店を開け、客を入れ何事もなかつたやうに営業してゐる。本当に〝テロ〟はあつたのだらうかと思ふやうな日常の風景。彼等にとつて多数派のイスラム教徒としての誇りはあり、埒外の、しかし予測出来うる「一夜劇」だつたのではないか。
(あとがきより)
◆自選十二句より
片付かぬ歳尾の見ゆる歳首より
ひたすらにも飽き何處ゆく風二月
桃の汁肘にて思案して止まる
鬼胡桃鬼の棲むには手狹なる
蟻喰の舌を登れる蟻二三
蠅帳の中より匂ふ一夜劇
うろこ雲是非また寄れといふ別れ
かまどうま髭ある障りなく跳べる
ひづめやはらか春萌に私淑して
目を細め春が見えるといふ盲目
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(ふらんす堂「編集日記」)
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[なかはらみちお(1951〜)「銀化」主宰]
装丁:間村俊一
菊判変型ハードカバー装
276頁
2016/10/25刊行