◆第一句集
石の卓潔し青蘆揺れづめに
この句のように柔らかい感性の持主で、その上にその句がつねに具象で詠まれていることに前途をたのしんでいる。観念・思想といえどそれに姿を与えて示すのが俳句である。伊奈君はそのことをいち早く心得てくれたようだ。
(「序にかえて」より 大野林火)
◆収録作品より
海女潜る入江の鮑知り尽し
菊日和賜はるも母片隅に
行き処なき蛾の群出水村の闇
出水引き棲みつく蟇よ先知らず
出水村闇に風鈴鳴りにけり
植田も牛も流され農を捨つるのみ
盆来ても稲の青さのなき部落
墓洗ひ農夫水禍の村を去る
聖夜の妻白編む何も欲しがらず
煙茸何もそこまで踏まずとも
*
[いなしゅうてん(1942〜)「濱」「いには」同人・「百鳥」所属]
序にかえて:大野林火
跋文:村上喜代子
装丁:君嶋真理子
四六判ソフトカバー装
150頁
2016/08/20刊行