◆第一句集
わが雛を盗る纏足女つどひ来て
恐ろしい。胸苦しい。声が出るような悪夢である。この世のこととは思われない。しかし、これは敗戦後の旧満州で地子さんが、実際に経験したこと。もし地子さんが記録しなければ、無かったことになってしまう。そこに地子さんが、どうしても書きつけなければならない、一巻にまとめなければならない理由があった。このように切実な俳句が、他にいったいどこにあろう。歴史をものがたる貴重な記録であると同時に、人間を描いた俳句、その極限とも言うべき句群である。
(帯より・小澤實)
◆自選十五句より
大地より賜るわが名雪割草
陽炎や父を探して遠き国
身の内に金鈴一つ春の闇
花屑や馬の跫音近づきぬ
東京廃墟百日紅のみ輝ける
死蝉の片羽懸かる蝉の穴
十薬や精神棟の鉄格子
汗の粒目にしみ麒麟傾ぎたる
どこからか産声のして広島忌
隠るるやわれ失禁の高粱畑
*
[まえだくにこ(1940〜)「澤」同人]
帯・小澤實
跋・押野裕
装丁:和兎
四六判フランス装
232頁
2016/7/20刊行