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平成二十六年六月十五日、梅雨の晴れ間の午後、私は百歳を二つお過ぎという、岡田日壽先生にお会いした。大井町線の尾山台、世田谷区等々力の、懐かしさを覚える佇まいのご自宅であった。
「母の本を作りたいのです」というご長女・本間依子さんのお話である。お書きになっているものが何かありますか、と伺うと、書き物はございます、とのことだった。日をおき、私が見せていただいたのは、何箱にも積み重なっている文箱の山であった。文箱の中身は、年次、日付を追い半紙に書かれたものが見事に整理されていた。文字は強い筆圧である。筆勢には迷いも停滞もない。文言ばかりではない。これまた一気に描かれた不思議な絵も添えられていた。私は文箱の中の言葉の世界を知りたい、とまず思った。
『日壽抄』は全体を五部に分けた。第一章「等々力の家」は、先生が半世紀以上住まわれている土地との深い地縁を、写真を中心に構成した。第二章「聖地巡拝」は、先生がインド佛教界の高僧・グラナタナ師の導きと、深い信頼関係の中で、二つの寺院を建立したことを跡付けた。第三章「『御文証』抄」は、取捨選択のいとまのない、厖大な文言の中から、一つは、時代を幾年かにわたり選んだ。写真を撮り、文字と絵の按配が伝わるようにした。もう一つは、一ヵ月という連続した時間の中での記述を紹介した。第四章「愛する品々」は、日々愛で続けてきた、小さなもの、インドから来た大きなもの、等々を、写真でまとめた。第五章「思い出の記」は八本の寄稿原稿である。巻末の「岡田日壽年譜」は、本間依子さん提供の資料をもとに編集人が整えた。この本の作成の途上で多くの方々のご協力、友情をお寄せいただいたことに感謝いたします。また日壽先生がご健在でいらっしゃる今『日壽抄』を校了できることを仕合わせに思っております。
(編集後記より:栗坪和子)
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[おかだにちじゅ(1912〜)]
編集:栗坪和子
題字:吉田道子
写真撮影;大槻 茂
A5半上製クロス装函入
152頁
2015/05/25刊行