◆第一句集
ゆりの木の花の燭台灯り初む
「花の燭台」は手柄だ。五月二十二日頃は、ゆりの木の花はまだ早い方で、咲き初めは緑黄色の花片も蕊を包んで、内側の赤いところが覗かれる。緑の葉の上の花は「ランプ」より「燭台」。加えて「灯り初む」は、はつらつと花のいのちの灯りと受け取れる。
(帯・風土独語より 神蔵器)
◆自選十句
去年今年涸るることなき井戸一つ
竹爆ぜて水の噴き出すどんどかな
立春の視線を上に向けてゆく
桜貝はるかなる磯恋うて鳴る
天上に続く吉野の花の雲
鐘を撞く梅雨の中なる寒山寺
白日傘文学館の坂登る
賜はりし命四万六千日
生涯を村より出でず柿の秋
木枯や吹き残さるる星一つ
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[いのうえあい(1919〜)「風土」同人]
序句・帯:神蔵器
装丁:君嶋真理子
四六判フランス装
248ページ
2015/05/09刊行