◆エッセイ集
暮れなずむ建都千二百年の都で人間の興亡を思い、寂寥感に浸ることも時には良いもの。鷹峰源光庵の本堂で「悟りの窓」(丸窓)と「迷いの窓」(角窓)を通して庭園を眺めつつ端座ひと時。「悟りの窓」は円型が宇宙を表現し、「迷いの窓」は人間の生涯(生老病死、四苦八苦)を象徴している。
正伝寺の縁側で比叡山を借景とした枯山水の庭を眺める。流れ行く雲、時折聞こえる鳥の囀り、吹き渡る一陣の風。日常の生活や時間から自由に解き放たれた世界。そこには永遠なるものを象徴する豊かな時が湛えられている。
本堂の格天井の四隅に小さな穴が開いているのに気付く。「ねずみの通し穴」と呼ばれ、迷い込んだねずみの脱出用に作られたものだという。人間に害をもたらす生物に対しても、追い詰めることなくそっと逃げ道を作ってやる優しさとおおらかな精神に感じ入る。人間の精神を閉塞状態へと追い込む現代の経済戦争においては、「通し穴」の存在など思いもよらないことであろう。
(「ねずみの通し穴」より)
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[あさぶきひでかず(1946〜)]
四六判並製カバー装
装丁:君嶋真理子
264頁
2014.12.15刊行