◆第一歌集
ふたりの子どものことばかり考えている歳月に
放っておいた私のチェロの魂柱は
いつのまにか倒れてしまっていたのです。
流れのままに読んでほしい歌集である。流れのままに読んでいくと、あえて詠まれていないことも感じられてくる。f字孔をのぞくと、ぼんやりと見えてくる「魂柱」のように。それは作者の歌をつくる動機だと言っていいだろう。
(解説:花山多佳子)
◆自選七首
なぜここに青いすべり台があるのだろう こんなさびしい雪の野原に
われの死後も生きてゆく吾子膝に抱きむらさきだいこん揺るるをながむ
f字孔のぞけば暗き空間よ 空のつくものなべて大切
驟雨去り世界はどこか鮮しくなりぬ わたしはパンを買いに行く
満月と電柱の距離をなんと言おう 明るき夜にふたつならびて
ミスチルの饒舌も案外身に沁みて年越しの夜に思う希望を
計画停電 ?燭のように灯は消えて窓辺に星をじっと見ていき
*
[みやじしもん(1955〜)「塔」所属]
解説:花山多佳子
装丁:石井トミイ
四六判上製カバー装
226頁
2014/07/27刊行