◆珠玉の文集
新興俳句の旗手・日野草城に俳句を学び、平明な詩情で独自な作品世界を確立した桂信子の評論・エッセイ・対談・インタビューなどを収録した散文選集。収録の日野草城論、『激浪』ノート」などは、当時の新興俳句の状況を知るのに貴重な資料である。また日常身辺について書かれたエッセイは、他者におもねることない信子の矜持が貫かれ、俳人・桂信子の魅力を語るに十分である。
◆「俳句この不可解なもの」より
俳句を作る時の心を、私はいつも不思議に思う。それは「句を作る」のではなくして、遠い祖先の霊魂がよびかけてくるような気がするからである。私の心の内側にかくれている私自身も知らない今までねむっていたものが、ある日、俳句のよびかけに、はっと目を覚まして、私の中から出てゆくのだ。
今、私の頭上で、しきりに鳴いている蝉も、何年も地中にひそんで、地上に生を得るのは僅かの日数でしかない。俳句もまた、おなじようなものだ。思えば、先祖の遠い昔から、私にうけつがれたものが、何かの機会に、火をふいて出てくるのだ。それ故に別の言葉で言えば、俳句はまことに贅沢きわまるものだと言と言えるだろう。氷山のように、俳句は、海上に出ている部分より、海中に沈んでいる部分が、何倍も大きいのだ。何年もつちかったものが、十七音というわずかな型にこめられて読むひとの心を打つ。ひとびとは、その背後にかくされたものに思いをひそませその心を感じとるのだ。
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[かつら・のぶこ(1914-2004)]
大阪市生まれ。大手前高等女学校卒業後、「旗艦」に初投句、日野草城に師事。’45年、空襲に遭い句稿だけを持って避難。’49年、第1句集『月光抄』を出す。’70年に23年間勤めた会社を退職し「草苑」を創刊、主宰。現代俳句協会顧問。第1回現代俳句女流賞のほか蛇笏賞、勲四等瑞宝章など受賞。
編集:宇多喜代子
装丁:君嶋真理子
A5判上製カバー装
654頁
2014.06.01刊行