◆ふらんす堂編集日記
◆第一句集
連翹の照る中妻の銀輪来
初期の句から。初々しくかつ瑞々しい作である。巧拙に関係なく若い日から句作の道に入れば当然こうした自己の在りようを写し出すことになる。俳句は私小説であるといったのは石田波郷だが、有宏氏もその門に連なる者として句作実践の場に生かしている。人生のかけがえのない時間をこれらの句に残していることはよろこばしい。
(跋より・鈴木しげを)
◆自選十句
晩春や胎児が蹴つて眠れずと
裸子の手をついてゐる畳かな
道端に花火見上げて妻をりぬ
夕焼や子の自転車に追ひつけず
ほんたうにあしたはくるか籠枕
ハイドンを小さくかけて夜の秋
子が家を出て行きし日の秋刀魚かな
父の日のバッハを聴いて眠りけり
皿一つ持ちて子規忌のサラダバー
着ぶくれて立つや「着衣のマハ」の前
*
[きむらありひろ(1952〜)「鶴」同人]
序にかえて:星野麥丘人
跋:鈴木しげを
装丁:君嶋真理子
四六判上製カバー装
254頁
2014.02.04刊行