[立ち読みする]
◆ふらんす堂編集日記
◆千変万化の一冊
とどまれば歩みうながす秋の風
歩みを止めると秋風に後押しされたように感じた。人生の一齣を想わせる感銘がある。
つぎつぎと玉むすびては滴れる
岩などから次々に滴りが落ちる光景に「玉むすびては」という美の一瞬を掴んだ。
掘りたてといふ筍の重さかな
朝掘りの筍を届けられたのか。日常の中に「掘りたての重さ」という重さを発見。
以上、人生、美の追求、生活実感と三句が三様であるように『白檀』一巻もまた千変万化で、まことに楽しい。
(帯より 鷹羽狩行)
◆作品紹介
あまた点されてさびしき盆灯籠
鶏頭は負けず嫌ひの花ならむ
子や孫の声でふくらむ初座敷
外出に少しときめき更衣
枝豆のさみどり皿に弾き出す
そこにだけ日の当たりゐて福寿草
厨の灯とどくところに葱囲ふ
仏壇のこんなところに鬼の豆
風鈴の思ひ出したるごとく鳴る
剥く手間のこと口にせず栗ごはん
*
[いとう・せつこ(1932〜)「狩」同人]
帯:鷹羽狩行
装丁:君嶋真理子
四六判上製カバー装
176頁
2013.06.27刊行