◆第一句集
東京の死角に冬の金魚かな
本句集の題名ともなった句であるが、東京での金魚の養殖地は最初本所や深川辺りであったそうだが、昭和に入ると都市化の波に押され、江戸川に近い一之江などの湿地帯に移り変わってきた。正に東京の死角とも言うべき位置にある。
(序より:能村研三)
◆自選十句より
ひとり居の母と語れよ冬木の芽
燈を消して音の生まるる春の雨
産土に父を還して粽解く
そこまでのつもりの素顔柿の花
秋夕焼たやすくきのふ忘れけり
神の留守掬へば消ゆる海のいろ
悲しみは祈りとなりて秋夕焼
中庭は家のポケット冬すみれ
東京の死角に冬の金魚かな
白鳥来とうに切れたるパスポート
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[とんしょともえ(1949〜)「沖」同人]
序:能村研三
跋:池澤正夫
装丁:君嶋真理子
四六版上製函入り
210頁
2012.08.28刊行