◆「寂寥」を胸に抱きしめて……
海辺にある薄曇の街。その場所で丁寧に経験された言葉に沈潜する記憶と日常の風景。それらが白いページの上で切なく混淆すれば、夏の系譜の詩集がここに生まれる。その、どこまでも真面目なおかしさに満ちた語彙と、潮の叙情が宿った行の移ろいに頬を撫でられ、初恋にも似たその感触に体を引き寄せられ、また突き放され、いつしか読み手は、それぞれの故郷で味わっただろう「寂寥」を胸に抱きしめている。
(帯より:中尾太一)
◆収録作品より
ビルに映る飛行機を眺めながら
私は誰を運んでいるのか
蒼然として
欺瞞に答えて打ちひしがれる
あれから随分経つが
この刹那まぶたは潤びる
私の体はラムネ瓶みたいだ
頷いたり傾げたりするたんびに
喉の奥でゴロゴロ
ビー玉が転がるのを感じる
(「なつかしいというだけ」より)
*
[ひよしちさき]
帯:中尾太一
装丁:稲川方人
菊判変形並製
124頁
2012.07.20刊行