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◆最後の粋人
俳句がつくりたかった比奈夫少年、やがて父・夜半の目を盗んでひとりで俳句をつくりはじめる。
そんな少年を少し離れてしかし熱心に見守る父。
小学生のころから俳句をはじめ90歳を超えてもなお現役の俳人でありつづける著者の自伝的エッセイ。
上方の艶麗さと洒脱さを併せ持ち悠揚迫らざる著者は、俳句界における”最後の粋人”である。
◆「少年誕生」より
少年は小学校時代から俳句が作りたかった。でも父がすでに著名な俳人であったことが、この少年の望みを真っ向から妨げていた。少年は子供にしては異様なほど負けん気が強かった。父に習っていた囲碁でも、負けると「なんで子供に勝つんや」と怒って、碁石を庭にぶっつけたりした。そして自分でそういう自分を怖れるようになった。もし俳句を作って父に負けたら─負けるのが当り前なのだが、家庭内で一悶着起るのは明らかであった。少年は家人に隠れてこそこそと俳句らしきものを書き止めた。
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[ごとうひなお(1917〜)「諷詠」名誉主宰]
付き物:初版本のみ栞つき
撮影:各務あゆみ
装丁:和兎
四六判上製カバー装
234頁
2012.04.01刊行