◆精鋭俳句叢書
さくらからさくらへ鳥のうらがへる
何気なく読めば単なる写実に見えて、やはり作者独特の感覚で捉えた、即物的、直截的な表現である。鳥の翻った様をありありと再現し、花の雲というが、町中が桜で満ちている時の大気が胸に押し寄せてくるような気さえする。
(栞より:石田郷子)
◆自選十五句より
おそろしき音して島の扇風機
雪山の頂ひとつづつ咲きぬ
盆栽になつて百年風薫る
あらためて鶏頭の数かぞへけり
或るあしたすず虫ららと死にたまふ
ジュラルミンケースが月の坂をくる
さかさまに森を巻きとる蝶の吻
夜を来る馬の輪郭星涼し
秋しぐれ新撰組のやうにくる
紙漉の女のかほもながれけり
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[しなだしん(1962〜)「青山」同人 ・ 「田」 「OPUS」所属]
栞:石田郷子
装丁:君嶋真理子
四六判並製カバー装グラシン巻
194頁
2011.09.13刊行