◆<みづいろの窓>藤田哲史評―『トンボ消息』評
◆「詩客 SHIKAKU - 詩歌梁山泊 〜 三詩型交流企画」にて山田亮太さんがトンボ消息を取り上げいます。
◆第3詩集
ミソラシ通信
ごらんなさいな
硬質の足音たててちかづく光芒とか
あの凍蝶の最期のはたたきとか
雪の結晶まであとわずかです
片方だけのニットの手袋が 窓辺でひらく
光束の指紋やその運命線だとか
あらかじめ受け入れるしかなかった
川原のすがれた草木とか
毎晩あの子の根拠のない木馬が月光に解体される夢になっていった
街頭のビラ配りのかわいた目とか
実物よりやや小さな 庭におりてゆくひとの足下とか
みじかい冬の日あしに遅れて
どんな喩法も通じない「あいうえお」の口のかたちを今はながめているだけだ
魔法にかかったあのみちしばの照り返しとか
麻酔をかけられている花嫁の悲痛な表情であるとか
誰かの感官が受け取っていくという
うす暗い部屋の中トランペットを磨く者とか
それから町の片隅にある時間のずれた時計台とか
自販機の同じ缶コーヒーを結果択び、二人で飲みながら
太陽までのびたマフラーのその一点を眼に焼きつけ、
ななめに通ってからまる 枯れ草…
ごらんなさい
雪が降りはじめましたよ
もうじき一面白くなる
(ミソラシ通信より)
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[てづかあつし]
装丁・挿画:手塚敦史
四六判上製函入
86頁
2011.04.23刊行