◆<みづいろの窓>野口る理評―野菊は、可憐で儚い花だ。
◆精選343句
戦争がはじまる野菊たちの前
二十世紀は終り二十一世紀に入った。人類社会が底なしの混迷をつづける一方、自然科学は宇宙や微小世界への探求を深めていて、その隔たりはひろがってゆくばかりである。小さな俳句という詩は小ささの故に、その間にあって詠うことができるのではないか。そんなことを思ったりする。
(あとがきより)
◆収録作品より
一といふ簡潔がよし年新た
花びらを手放してゐるさくらかな
永いことじやんけんをせず草萌ゆる
水際まで山落ちてゐる河鹿笛
はつふゆの木と木の間澄みにけり
待ちどほしきことなくなりぬ春の闇
大根を白くする水流れけり
鳥と食べし少年の日のさくらんぼ
凍る夜は隣の山がきて覗く
冬深しときどき夢に驚いて
*
[やじまなぎさお(1935〜)「梟」主宰]
栞:高野公彦
装丁:君嶋真理子
A6判フランス装
92頁
2011.03.26刊行