◆第十二句集
花に一会花に一会と老いけらし
とかくする内に、いつの間にか余生という境涯に入っている自分に愕然としている。余生という言葉には、どこかきらびやかなところもあるが、一般には老後に残された人生の意で、何となく淋しさが付き纏う。余命は余命いくばくもなしと使うように、いよいよ儚い。それで「残日」。俳句は好きだから作り続けたい。『残日残照』のあとの残日がどうなるのか分からないのも、自分でも楽しみである。
(あとがきより)
◆自選十五句より
今日は稀に雲一つなく雲間草
?(さかばやし)三輪よ松尾よ新酒出づ
けふ会ひて枸杞が一番かはいい実
焚火跡暖かさうに寒さうに
酔早し雪の降る夜のあられ酒
流さるることはなかりし裸雛
初霞棚引く野山ありてこそ
老にまだ書くこと残り初日記
茎の石家系危ぶみゐたりけり
襟巻の狸狐のやうな顔
*
[ごとうひなお(1917〜)「諷詠」主宰]
装丁:山岡有以子
四六判上製クロス装
232頁
2010.09.30刊行