◆崇高幽玄な世界
御嶽は雲の中なり花りんご
御嶽さんは雲の中、その麓は林檎の花盛り。雲の白さが引き立てる林檎の花の美しさ。
靄に浮く大和三山雁わたる
山麓に靄がかかった大和三山。折から雁の列が通ってゆく。気品に満ちた古代さながらの風景。
両句とも大景であり、構図も明確だが、「雲」や「靄」を配することで、崇高幽玄な世界が展開された。名画にまさる名句といえよう。
(帯より:鷹羽狩行)
◆岬 雪夫抽出
御嶽は雲の中なり花りんご
遠き日のことははつきり木の葉髪
靄に浮く大和三山雁わたる
やはらかき障子明りに針運ぶ
火の色の触れてつめたき落椿
喉仏動く死人や村芝居
淡路島をば借景に墓洗ふ
囀りの奥にさへづり裏六甲
幕間に吉良のふるまふ新走り
北淡海よりひたひたと春の水
人はみな侏儒となりゆく那智の滝
飛ばされし戒名拾ふ寒さかな
*
[ひぐち・すまこ(1930〜) 「狩」「天衣」同人]
序句/帯:鷹羽狩行
跋:岬 雪夫
装丁:奥川はるみ
四六判上製カバー装
188頁
2010年6月16日