◆待望の第三句集
俳句は象徴詩である。
目と心を傾けて紡いだ言葉の向うに、作者にも読み手にも、願わくは初めての何かが顕つことを期するのである。
(著者)
◆自選十五句より
黄昏やをこぜの眼もて世を見たく
後ジテの足袋渾身の冷気あり
奈良坂や夏蝶は地に翅合はす
さらはれるなら春雪の畦をこそ
薔薇の字を百たび書きぬ薔薇の季
蜘蛛の囲の向う団地の正午なり
銭亀を飼うて百夜のすさびかな
大岩を乗り出して滝凍てにけり
踏むならばルオーの蒼き基督を
わが狂気うすらひに葉の載つてをり
死に至る時間蕪を煮る時間
廃駅あり冬の落暉を見るために
滝の絵にしばしの端坐群青忌
去年今年ジヤコメツテイの歩く人
自動ドア大きく開き子規忌なる
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[ながしまやすこ(1931〜)「鷹」同人]
装丁:間村俊一
四六判上製カバー装
240頁
2009.09.22刊行