◆激情から抑制まで
雪兎作りて母の帰り待つ
ふるさとの真白の蚊帳に母と寝て
田草取る形のままに老いし母
病む母に少し開けやる春障子
母の日の母を車座もて囲み
なんという優しさだろう。母を詠んだ茂吉や啄木の歌が思い起こされ、胸が熱くなった。そして、
堰といふ堰を呑み込み雪解川
の激情から、
百薬がほどにとどめて菊の酒
の抑制までの幅の広さを持つ作者である。
(帯より・鷹羽狩行)
◆鷹羽狩行抽出
会ふだけでよいと言はれて春炬燵
隅といふところをば得て余り苗
出番たがへて喝采の村芝居
良寛の国の弾める手毬かな
流氷が見ゆると任地より便り
水打つて土より風を誘ひ出す
咆哮の白熊のさま流氷来
いつしかに氷室となりし防空壕
落葉焚叱られてゐる修行僧
おてんばと思ひをりしが藍浴衣
*
[しみず・えさし(1941〜)狩同人]
序句/帯文:鷹羽狩行
跋文:太田寛郎
装丁:君嶋真理子
四六判上製カバー装
208頁
2009.09.10刊行