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帯・小川軽舟
●帯より
最良の結果を思へ冬木の芽
静かに待つことで対象の心を開かせてきた伊藤さんに、五十一歳の生涯はあまりに短すぎた。しかし、伊藤さん自身が準備していたこの忘れがたい句集『春の星』は、ご両親と仲間たちの手でこうして世に送り出される。天上の伊藤さんはそれを「最良の結果」として、莞爾と受け止められるに違いない。
春の星にこにこと笑み返しけり
麦秋や恐い先生にはなれず
放課後も教師は孤独秋夕焼
見つめをり金魚の言葉分かるまで
春星や詩を説く人の大き耳
十字架の素朴な形つばくらめ
梅雨深し肩に置かるる牧師の掌
豆飯や老いて仲良き父と母
蛍の死を悟りたる高さかな
待つことが好きな男に木の実降る
――小川軽舟抄出