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帯・鵜飼 哲
ああ 冬眠に失敗しちゃったんだね、あねき。
冬眠に失敗した熊は、氷に埋もれ
いい頃合いに光りはじめる
涙 とも いのちの火 とも ちがう
(「名寄の冬」より)
鳥居万由実の詩が歌うのは、<ことば>が<ことば>であるがゆえの遠さなのか。それとも、<ことば>がもはや届かない距離なのか。ひそやかな魂の旅から、光、音響、律動、心象が次々と生まれ出ては、さまざまな人称、数、性、種(動物や植物)にひととき宿り、そしてしずかにそれらを破壊してゆく。もう誰が歌っているのか分からない。こうして読者は、いつか不思議な寒冷地へ導かれ、かつて見たことない空を見るだろう。(帯・鵜飼 哲)