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行く年の松は松なるたたずまひ
作品の数を、いま改めて目にとめながら思うのは、この作者は狭いと言われることも承知で、おのれの心の在り所を確りと持っている人のようである。俳句への姿勢に揺らぎの見えないことでも解る。それが京に関わる古さ、なつかしさ、その地霊への信仰のような思郷の念に根があるとすれば、これも一詩人の生き方として賛意を表したい。山上樹実雄(帯より)
●自選10句
腹に値をしるされて河豚売られけり
寒椿紅極むれば造花めき
しろがねの秋刀魚いよいよ尖りけり
春愁の音の沢庵噛みにけり
鯛涼し生贄にもある岩手山
曳き初めのひと揺れ鉾を高くせり
棒あれば遊び道具に日脚伸ぶ
炎帝のづかと踏み込む偏頭痛
山笑ふ貨車どこまでも続きをり
花万朶一瞬といふ無音かな
装丁・君嶋真理子
序・山上樹実雄
4/6判上製カバー装
204頁