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春浅き日、自分が病魔に侵されていることを知った。大好きな季節の訪れ。病院の窓の外では、一日一日季節が移り変わっていく。脳裡をよぎるのは、春の季語の数々…。そんな時間から生まれた処女句集。
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<また別の水音に会ふ紅葉坂>
「六花」で有馬温泉に吟行をしたときのこと、この句が廻ってきて、私は驚愕したのを今もって鮮明に記憶している。(中略) はたして作者は辻享子であった。聴覚を活かし、しかも鋭い捉え方だ。当日私を含め六花の仲間たちは紅葉の美しさや澄み切った流れに心を奪われ、つまり、視覚を運用していたのに、享子は視覚を捨てて聴覚をフル回転させていたのだった。私は迷うことなく特選にした。今もこの句に対する評価は変わっていない。この句意と句の佳さは説明するまでもないだろう。山田六甲(序文より)
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蛸さげて帰る算段してをりぬ
水仕事夫に残して風邪寝かな
母の手の届くところに初暦
アリア歌ふやうに呼びつつ焼芋屋
交はれる蜥蜴螺鈿の愛こぼし
あんさんのよろしいやうに春袷
序文・山田六甲 栞・松山律子
装丁・君嶋真理子 四六判上製カバー装 236頁
●著者略歴
昭和13年8月2日生(旧姓:桜井)。昭和32年大阪府立住吉高等学校卒業。昭和36年大阪樟蔭女子大学文学部国文学科卒業。昭和45年「朝日小学生新聞」「朝日ぴーぷる」「御堂筋新聞」等の契約記者の傍ら、ラジオ・テレビ番組に多数出演するようになる。昭和51年関西司会者協会に所属しプロの司会者となる。昭和55年関西司会者協会にて師範となる。平成8年「朝日カルチャー」ブライダル司会者養成講座講師となる。平成4年「雨月」主宰大橋敦子先生に俳句を学ぶ。平成5年朝日カルチャー俳句講座にて坪内稔典先生らに俳句の手ほどきを受ける。平成7年「六花」入会。山田六甲先生に師事。平成12年「六花」編集人。平成13年「六花・六郷集」同人