◆ 即物有情のよろしさ
< 雛の間の衣桁にかけし喪服かな >
女子の将来や希望を思わせる雛祭、その部屋に吊るされた喪服。その色彩の赤と黒を通じて生と死の対比が根本にある句。
一方、雛のかもし出す幻想の世界にいざなわれて、まるで王朝の頃の葬いを思わせるところもあろう。「衣桁」という言葉の働き。
鷹羽狩行(鑑賞三句より)
縋るものなし水馬水掴む
どの蔓をたぐらば寄らむ烏瓜
うぐひすや天にも地にもほめくもの
同じ田に育ちし金魚撰り分ける
人声のすこし暑くて八重桜
月光の海より上がる冷し馬
日向ぼこ背中に羽の生えさうな
序句/鑑賞三句・鷹羽狩行 跋文・田中春生
装丁・君嶋真理子 四六判上製カバー装 195頁
●著者略歴
昭和4年5月10日大阪府堺市生まれ。昭和44年「天狼」入会。平成4年朝日俳壇賞受賞。平成6年「天狼」終刊。平成6年「狩」「幡」入会。平成9年「幡」退会。平成10年狩20周年大会賞受賞。現在、狩同人、俳人協会会員