◆ 著者第一句集
<全身で物言ふ孫に日の永き>
<梅咲くや小暗きところ水はしり>
<海苔粗朶を洗ふ夕浪つぶやけり>
<老ゆるとも何かをせねば麦の秋>
前半に収められた作品であるが、どの句も非凡な力で読みこなされている。一句目も単なる愛情に溺れた「孫俳句」に終わらせることなく実をしっかり捉えている。二句目、探梅でみつけた自然の中の梅の木であろうか。
三句目、夕浪がつぶやくと言う擬人化がおもしろい。四句目、まだ六十代の頃の作品と思うが、老いてもなお何かをしていかなければと言う思いがあり、人生を前向きに生きていこうとする姿が窺える。
能村研三(序文より)
実紫蘇摘む夫との月日いとほしみ
ひとり居の水底めきし夜の秋
あれこれと迷ふ老いさき日向水
きらきらと生きたし卒寿の白浴衣
すこしだけ手抜きの気儘老の冬
序文・能村研三 跋文・渡辺昭
装丁・君嶋真理子 四六判上製カバー装 179頁
●著者略歴
明治41年3月30日栃木県栃木市にて熊倉茂吉(医師)の次女として生る。大正14年栃木高等女学校卒業。昭和8年大柿金一郎と結婚。昭和45年10月「沖」創刊号に初投句。入会以来現在に至る