対象の真実を窮めようという気魄、季語の本意に触れたいという強い願い、他人には見えないものが見え、それを恰も碁を打ち将棋をさすように先を読みながら布石していく特技…。良質な原動力から生まれる言葉を集めた句集。
◆ 著者第一句集
<藍といふしづかな色を干しにけり>
<おでん屋にただ集つてをりにけり>
といった句を見ていると、さすがに理科系の学問をした者らしく、対象の真実を窮めようという気魄がひしひしと感じられる。季語の本意に触れたいという強い願いもはっきり見える。その上で、他人には見えないものが見え、それを恰も碁を打ち将棋をさすように、何手も先を読みながら布石してゆくという特技。一口で言えば、そんなところが立夫の句の生まれる原動力となっているようだ。後藤比奈夫(序文より)
椿落つ刻の中から抜け出して
人に会ひ菫の花の濃くなりぬ
風船の中に女の息をおく
筍を茹でてやさしき時間かな
思ひ出をはたはたの飛び越えにけり
灯をともし牡蠣船さらに暗くなる
序文・後藤比奈夫 装丁・君嶋真理子
四六判上製カバー装 208頁
●著者略歴
昭和18年7月14日東京都国立生れ。昭和37年3月灘高等学校卒業。昭和45年3月東京大学工学部修士課程修了。新菱冷熱工業入社。昭和50年「諷詠」入会・同人。昭和51年「ホトトギス」に投句始める。平成8年東京大学博士号取得。平成12年「ホトトギス」同人。平成13年新菱エコビジネス社長。