静かな畏怖がじんわりと支配しているような句集。平成3年から13年までの句を収める。
◆ 著者第一句集
<木の実落ち実生の旅に出でにけり>
木の実は人為により採集され目的によってさまざまの処理をされるものを除くと、自然に大地に落ち、落ちたところ、時などによりそれぞれの生涯がはじまるのが普通である。何十年も経て大木になり得るものは極く僅かであろう。それが実生の旅といえるものだろうか。俳句にしても好きではじめてもいろんなコースを経て、自分だけの力ではなく、未知のαが陰に陽に作用し、働きかけて来て、その人らしい成長を見るのではないだろうか。
そんなことで掲句を面白いと称揚したのであった。実生(みしょう)であって、じっせいではない。小さな庭でも実生から追々その木らしく育ってくる草木は、私たちを励まし導いてくれるのである。山田みづえ(序文より)
冬の日の慈しみあり葱作る
冬耕の男やさしき妻あらむ
乗り換へて高原の秋深まれり
秋草の影秋草の中にあり
春寒の犬の柩はダンボール
コッペパンの青春なりし冬木の芽
冬草を踏みて友情かぎりなし
序文・山田みづえ 装丁・君嶋真理子
四六判上製カバー装 224頁
●著者略歴
昭和10年7月27日山形県に生る。平成3年「木語」入会、木語同人、俳人協会会員